北朝鮮とビットコイン：2025年ハッカー集団が約20億ドルを窃取──制裁回避と資金調達の実態

近年、北朝鮮がビットコインをはじめとする暗号資産（仮想通貨）に関わる活動が国際社会で注目されています。特に2025年に入ってからは、北朝鮮のハッカー集団による大規模な暗号資産の窃盗事件が相次ぎ、世界の暗号資産市場や国際安全保障に大きな影響を与えています。本記事では、北朝鮮のビットコイン関連の動向、背景、手口、そしてそれがもたらす意義について多角的に解説します。

北朝鮮の暗号資産窃盗の現状と規模

2025年上半期において、北朝鮮のハッカーグループは約20億ドル（約2,900億円）を超える暗号資産を盗み出したと報告されています。特に注目されたのは、2025年2月に発生した世界第3位の暗号資産取引所「Bybit」へのハッキング事件で、約15億ドル（約2,200億円）が流出しました。これは暗号資産史上最大規模の単一ハッキング事件として記録されました。

また、TRM Labsの報告によると、北朝鮮は2025年上半期に世界の暗号資産犯罪の約70％を占める約16億ドルを盗み出しており、これは国際的な金融制裁を回避しながら資金を調達するための重要な手段となっています。さらに、北朝鮮のビットコイン保有量はアメリカ、イギリスに次いで世界第3位に達していると推定されており、約13,562BTC（約11億4,000万ドル相当）を保有しているとされています。

北朝鮮が暗号資産を活用する背景と目的

北朝鮮が暗号資産を積極的に狙う背景には、国際的な経済制裁の影響で外貨獲得が困難な状況があります。従来の金融システムでは制裁により資金調達が制限されているため、匿名性が高く追跡が困難な暗号資産は、国境を越えた資金移動や資金洗浄に適した手段として利用されています。

こうした資金は、核兵器やミサイル開発などの軍事プログラムの資金源としても活用されていると国連制裁報告書や米国当局は指摘しています。暗号資産の匿名化技術を駆使し、複雑な資金洗浄手法を用いることで、国際社会の監視をかいくぐりながら資金を確保しているのです。

北朝鮮のハッカー集団とその手口

北朝鮮の暗号資産関連のサイバー攻撃は、主に「ラザルス（Lazarus）」と呼ばれるハッカー集団によって行われています。ラザルスは高度なサイバー攻撃技術を持ち、世界中の暗号資産取引所や関連企業を標的にしています。

彼らの攻撃手法は多岐にわたり、フィッシング詐欺、マルウェア感染、スマートコントラクトの脆弱性を突く手法などが含まれます。2025年には日本の大手金融グループSBIの子会社「SBI Crypto」からも約31億円相当の暗号資産が不正流出し、この事件も北朝鮮の関与が疑われています。

これらの攻撃は単なる経済的損失にとどまらず、国際的な安全保障や金融市場の健全性に対する深刻な脅威となっています。特に暗号資産の匿名性を悪用した資金洗浄や制裁回避の手段としての利用は、国際社会の対応を難しくしています。

国際社会の対応と今後の展望

国連や米国をはじめとする国際機関は、北朝鮮の暗号資産を利用した資金調達活動に対して厳しい警戒を強めています。金融活動作業部会（FATF）は、北朝鮮が暗号資産市場における最も深刻な国家ベースの脅威であると警告し、各国に対して取引所のセキュリティ強化やマネーロンダリング対策の徹底を求めています。

また、暗号資産業界も自発的にセキュリティ対策を強化し、異常な取引の監視や不正資金の追跡技術の開発に取り組んでいます。これにより、北朝鮮の資金調達ルートを断つ努力が続けられています。

今後は、国際的な協力体制の強化と技術的な監視能力の向上が鍵となり、暗号資産の健全な利用環境の確保が期待されています。北朝鮮のような国家レベルのサイバー犯罪に対抗するためには、国境を越えた情報共有と迅速な対応が不可欠です。

ビットコインと北朝鮮に関する誤解と正しい理解

北朝鮮がビットコインを利用しているという話は、単なる犯罪行為の側面だけでなく、国際的な経済制裁の中での資金調達の一環として理解することが重要です。暗号資産は本来、国際送金の効率化や金融包摂の促進など多くのポジティブな側面を持っています。

そのため、北朝鮮の事例を通じて暗号資産全体を否定するのではなく、適切な規制と技術的対策を講じることで、安全かつ透明性の高い市場を築くことが求められています。暗号資産の健全な発展は、世界中の多くの人々にとって有益な金融手段となり得るからです。

まとめ

2025年における北朝鮮のビットコインを中心とした暗号資産の活用は、国際的な経済制裁の回避や軍事資金の調達を目的とした高度なサイバー犯罪活動として注目されています。北朝鮮のハッカー集団は世界最大規模の暗号資産窃盗を繰り返し、ビットコイン保有量も世界第3位に達していると推定されます。一方で、国際社会はこれらの脅威に対抗するために監視体制やセキュリティ対策を強化し、暗号資産市場の健全性維持に努めています。暗号資産の持つ可能性を活かしつつ、不正利用を防ぐための技術的・制度的な取り組みが今後も重要となるでしょう。