総平均法(そうへいきんほう)は、一定期間内に購入した仮想通貨の合計購入金額を合計購入数量で割り、期間全体の平均取得単価を算出して損益や保有資産の取得価額を計算する手法です。本稿では総平均法の基本概念、計算手順、メリット・デメリット、確定申告や実務での扱い方、注意点、具体例、よくある質問を複数の情報源をもとにわかりやすく解説します。
1. 総平均法とは何か(概要)
総平均法は、会計や税務で使われる取得価額の評価方法の一つで、暗号資産(仮想通貨)の損益計算にも適用されます。期間内に購入したすべての金額を合計し、期間内に取得した数量で割ることで「平均取得単価」を求め、その単価を使って売却時の損益や保有残高の評価を行います。税務上は、総平均法と移動平均法という二つの主要な算定方法がある点が共通知識です(国税庁や税務専門サイトでの説明に基づく)。
ポイント(短く)
- 集計タイミング:期間の最後にまとめて平均を出す。
- 使いやすさ:計算がシンプルで手間が少ない。
- 適用領域:暗号資産(仮想通貨)の損益計算や保有評価に利用される。
2. 総平均法と移動平均法の違い(簡潔な比較)
総平均法は期間全体の平均を一度に計算する手法であるのに対し、移動平均法は購入ごとに平均取得単価を更新していく方法です。結果として年度ごとの実現損益が両者で異なることがありますが、長期的・最終的にすべての銘柄を売却した場合の総合損益は一致すると説明されます(税務解説や専門メディアの整理に基づく)。
3. 総平均法の計算式と具体的な手順
総平均法の基本的な計算ステップは以下の通りです。
- 対象となる基準期間(例えば1年)に購入した仮想通貨の合計購入金額を算出する。
- 同期間に取得した仮想通貨の合計数量を集計する。
- 合計購入金額 ÷ 合計購入数量 = 平均取得単価(期間平均)を算出する。
- 売却時の収支は、売却総額 -(平均取得単価 × 売却数量)で求める。
この手順は国税のFAQや暗号資産に詳しい税務・会計系サイトの解説に沿った標準的な方法です。
計算式(要点)
平均取得単価 =(期間内の購入合計金額)÷(期間内の購入合計数量)
売却による収支 =(売却総額)−(平均取得単価 × 売却数量)
4. 実際の計算例(ステップごとに)
ここでは理解を深めるために、架空の数値を使った計算例を丁寧に示します(すべて説明目的で、価格予想や投資助言は行いません)。
例:ある年(基準期間)に以下のような購入・売却があったとします。
- 1月:BTCを0.5 BTC、購入時の日本円換算価格 1,500,000 円(= 3,000,000 円/1 BTC換算)
- 4月:BTCを0.3 BTC、購入額 900,000 円(= 3,000,000 円/1 BTC換算)
- 9月:BTCを0.2 BTC、購入額 640,000 円(= 3,200,000 円/1 BTC換算)
- 12月に0.6 BTCを売却し、売却総額は 2,040,000 円(売却時レート換算)
ステップ1:期間内の購入合計金額 = 1,500,000 + 900,000 + 640,000 = 3,040,000 円。
ステップ2:期間内の購入合計数量 = 0.5 + 0.3 + 0.2 = 1.0 BTC。
ステップ3:平均取得単価 = 3,040,000 ÷ 1.0 = 3,040,000 円/BTC。
ステップ4:売却による収支 = 売却総額 2,040,000 −(平均取得単価 3,040,000 × 売却数量 0.6) = 2,040,000 − 1,824,000 = 216,000 円。
この例では、売却で得られた収支(所得相当額)は 216,000 円となります。上の数値は説明のための架空例で、実際の処理は各自の取引記録と税法に従ってください。
5. 総平均法のメリット(実務での利点)
- 簡便さ:期間全体の合計で平均を出すため、計算が単純で手間が少ない(取引回数が多い場合でも集計しやすい)。
- 価格変動の影響が緩和:短期的な価格変動や一時的な高値・安値が平均に吸収され、極端な変動による年度間での損益のブレが小さくなることがある。
- 帳簿管理の負担軽減:取引頻度が高い個人投資家でも、期間を区切って集計すれば済むため管理しやすい。
6. 総平均法のデメリット(留意点)
- 年度ごとの結果差:移動平均法と比べると、年度単位の損益が異なる場合があるため、年度ごとに結果を比較したい場合には注意が必要です。
- 細かい取得単価の反映が遅れる:購入のたびに平均を更新する移動平均法に比べ、総平均法は期間の最後に一括で平均を出すため、途中売却時に最新の購入単価が反映されない可能性があります。
- 複利的な入金や外部入出金への対応:ウォレット間の移動や他口座からの入金などを適切に区別・記録しておかないと、集計がずれることがあります。
7. 税務上の取り扱い(確定申告での注意)
日本の暗号資産に関する税務上は、総平均法と移動平均法のいずれかで損益計算を行うことが想定されています。どちらの方法を採用するかは継続的に一貫して適用することが望ましく、年度ごとに勝手に方法を切り替えると説明や整合性の面で問題が生じる可能性があります(税務署や税務FAQ、会計系解説での一般的な指摘)。
また、外国取引所や複数ウォレットを利用している場合、それぞれの取引履歴を正確に集約することが重要です。取引履歴のダウンロードやAPI経由での取得、あるいは暗号資産損益計算サービスの活用が実務上役立ちます。
8. 実務ワークフロー(推奨される手順)
総平均法を実務で運用する際の基本的なワークフローを示します。
- 取引履歴の取得:各取引所・ウォレットから年ごとの取引履歴(購入・売却・送金・受取)を入手する。
- 取引の分類:購入、売却、送金(自己間移動)、エアドロップや報酬(所得扱いの可能性あり)などを区別する。
- 期間の設定:総平均法を適用する基準期間(通常は暦年)を明確にする。
- 合算・平均の計算:購入合計金額と購入合計数量を集計して平均取得単価を算出する。
- 売却や評価の計算:売却時に平均取得単価を用いて収支を算出する。
- 記録の保管:計算過程や元データを証拠として保管する(税務調査等に備えて)。
9. 取引の種類別の扱い方(送金やトークン分裂など)
仮想通貨取引では購入と売却以外にも、ウォレット間の送金、トークン分裂(ハードフォーク)、報酬(ステーキング報酬など)やエアドロップが発生することがあります。これらは総平均法の計算に影響を与えるため、以下の点に注意してください。
- ウォレット間の移動:自己所有のウォレット間の送金は取得価額の移動であり、取引として損益扱いにならないが、記録を残しておくことが重要です。
- フォークやエアドロップ:新たに得たトークンは原則として取得時点の時価で所得計上や取得価額の設定が必要になる場合があるため、税務上の扱いを確認してください。
- ステーキング報酬等:報酬として受け取ったトークンは受取時点で所得計上が求められる可能性があるため、取得価額計算や帳簿での区別が必要です。
10. ソフトウェアやツールの活用
取引回数が多い場合や複数取引所を使っている場合は、手計算が難しくなるため、損益計算ソフトや損益計算サービスの利用が推奨されます。こうしたサービスでは総平均法・移動平均法の両方に対応していることが一般的で、CSV取込・API連携で取引履歴を自動取得し、集計・レポートを作成できます。
ツール選びの際は、
- 対応取引所の多さ、
- ウォレット(オンチェーン)データの取り込み、
- サポートされる算定方法(総平均法/移動平均法)、
- 出力形式(確定申告向けのレポート)
などを確認すると実務効率が上がります。
11. 総平均法を選ぶときの判断ポイント
どちらの方法(総平均法/移動平均法)を採用するかは次の要因で判断するとよいでしょう。
- 取引頻度:取引が少ない場合はどちらでも負担は小さいが、取引が多い場合は総平均法の方が集計が簡単な場合がある。
- 税務・会計の一貫性:方法を年度ごと、口座ごとに恣意的に変えないこと。可能であれば続けて同一の方法を使う。
- 管理リソース:手作業での管理に限界がある場合はソフトウェアや外部サービスを活用する。
- 将来の売却計画:年度内に頻繁に売買を繰り返す計画がある場合は、移動平均法の方が売却ごとの正確な単価を反映しやすいと感じることもある。
12. よくある質問(FAQ)
Q. 総平均法はどの期間で区切ればよいですか?
A. 多くの個人は会計年度(日本なら暦年:1月1日〜12月31日)を基準にすることが一般的です。ただし、事業的に行っている場合などでは事業年度に合わせる必要があります。重要なのは期間を明確にし、一貫して適用することです。
Q. すでに移動平均法で管理しているけれど総平均法に変更していいですか?
A. 原則として、算定方法は継続して用いることが望ましいですが、やむを得ない事情で変更する場合は理由を明確にし、過去データの整合性を保つための手続きを取ることが求められる場合があります。税務上の扱いについては専門家に相談してください。
Q. 送金で他の取引所に移動したコインはどう扱う?
A. 自分の保有間での送金は、基本的には取得価額の移動であり売買による損益は発生しません。ただし、トークンのスワップやラップ(ラッピング)など仕組みが変わる場合は別途扱いの確認が必要です。送金時のtx(トランザクション)記録も保存してください。
Q. 総平均法で計算した結果を確定申告に使えますか?
A. はい、総平均法は確定申告で利用可能な算出方法の一つです。正確な取引履歴を元に計算し、必要な書類や説明を用意しておきましょう。状況によっては税理士など専門家の確認をおすすめします。
13. 実務での記録例(シンプルな帳簿の付け方)
総平均法を適用する際の最低限の記録項目の一例です。CSVやスプレッドシートで管理すると便利です。
- 日付
- 取引種別(購入/売却/送金受領/送金送付/報酬等)
- コイン銘柄(例:BTC, ETH)
- 数量
- 対価(法定通貨換算:例 日本円)
- 取引所・ウォレット名
- 取引手数料(法定通貨換算)
- 備考(txハッシュ、送金先など)
14. 総平均法運用時の実務上の注意点(チェックリスト)
- 取引所やウォレットごとに時差や価格差があるため、同一銘柄でも記録の単位(日本円換算レートなど)を統一する。
- 送金やウォレット移転は取得価額の移動とみなすため、対象取引の区別と証跡を残す。
- エアドロップやステーキング報酬などは受取時にどのように扱うかを事前に整理しておく。
- 年度内に使用する計算方法は一貫して適用する(税務上の説明責任が生じる場合がある)。
- 計算結果や元データは一定期間保存しておく(税務調査に備える)。
15. ケース別の簡易アドバイス(利用シーン別)
- 取引回数が少ないライトな投資家:総平均法は手軽で管理しやすくおすすめです。
- デイトレ等で頻繁に売買する方:移動平均法の方が売買ごとの損益を正確に反映しやすいケースがあるため、どちらが適しているかを検討してください。
- 複数取引所・オンチェーンでの運用:集計ツールや損益計算サービスの利用を検討するとミスを減らせます。
16. 実際に使われることが多い場面(事例的説明)
総平均法は、次のような状況で頻繁に採用されます。
- スイッチング(複数年にわたる購入)をしている個人投資家が、年度ごとの管理を簡素化したいとき。
- 長期保有を基本とする方が年次での取得単価を求め、売却利益を一括計算したいとき。
- 会計処理を簡略化して確定申告資料を作成したいフリーランスや個人事業主。
17. 参考にした一般的な情報の要旨(複数ソースの整理)
本稿では、国税庁の暗号資産関連FAQや銀行・税務系解説、会計・税務専門サイト、暗号資産損益計算サービスの解説など複数の公開情報を参照して、総平均法の概念、計算方法、税務上の位置づけ、メリット・デメリット、実務運用上の注意点を整理してまとめています。各種情報では表現や事例がやや異なることがありますが、総平均法の基本的な考え方と実務上の使い方については共通した理解が示されています。
18. 追加の実務ヒント(作業を楽にするコツ)
- 年ごとのバックアップを残す:年度ごとにスナップショットを保存しておくと過去データの照合が容易になります。
- 手数料や出金手数料を忘れずに:取引にかかった手数料は取得原価に影響するため、集計に含めること。
- オンチェーン取引はtxハッシュで証跡を保持:後から取引を追跡する際に有効です。
- 変更履歴を残す:もし算定方法や集計の仕様を変更する場合は、変更理由と日付を記録しておくと税務説明がしやすくなります。
19. 注意:本稿が提供する情報の範囲
本稿は総平均法の概念と実務上の一般的な運用方法、注意点を教育的に整理した情報提供を目的としています。個別具体的な税務判断や投資判断、価格予想についてのアドバイスは行っていません。税務上の取り扱いや会計処理について不安がある場合は、税理士等の専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
総平均法は、一定期間内の購入合計金額を購入合計数量で割って平均取得単価を求め、これを基に売却時の損益や保有資産の評価を行う簡便な方法です。計算が容易で取引回数が多い場合でも集計しやすい反面、年度単位の損益が移動平均法と異なることがあるため、一貫性を持って運用することが重要です。取引履歴の正確な記録、送金や報酬の扱いの整理、必要に応じた損益計算ツールの活用が実務上のポイントとなります。
仮想通貨の総平均法とは?計算方法・具体例・確定申告で押さえるポイントをまとめました
総平均法は、仮想通貨の取得価額を簡潔に算出できる実務的な手法であり、明確な記録と一貫した運用を前提に、個人・事業者問わず損益管理の有力な選択肢となります。



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