暗号資産金融庁誕生へ――金商法移行で変わる規制と利用者保護の全貌

暗号資産金融庁とは、金融庁内で暗号資産関連の監督とイノベーション推進を担う新たな部署や取り組みを指す概念として注目されています。伝統的な金融規制を超え、デジタル資産の健全な発展を支える重要な役割を果たしています。

暗号資産金融庁の背景と誕生の経緯

金融庁は、暗号資産市場の急速な拡大とステーブルコインの普及に対応するため、組織体制を強化する動きを進めています。2025年8月末に、政府に対して「暗号資産・イノベーション課」の新設を要求したことがその象徴です。この課は、暗号資産交換業者やステーブルコイン取り扱い業者の監督・検査を担いつつ、デジタル技術を活用したイノベーションの推進も使命としています。これにより、金融庁は従来の銀行中心の監督から、暗号資産分野へのリソースシフトを明確に示しました。

この新ポストの責任者は、暗号資産交換業者などの監督とイノベーション推進の二本柱を強調しています。具体的には、システム専門の検査官やマネーロンダリング対策の専門家が配置され、参事官直轄の「暗号資産モニタリング室」も設置されました。不適切な事案が発生した場合、報告徴求や業務改善命令を発出する体制が整っています。これらの取り組みは、市場の健全性を保ちながら、新しい技術の可能性を広げる基盤を提供します。

金融庁の暗号資産規制の歴史的変遷

暗号資産の規制は、2016年の資金決済法改正から始まりました。当初は「仮想通貨」と呼ばれていましたが、2017年の改正で「暗号資産」に呼称変更され、財産的価値を持つ決済手段として位置づけられました。この改正では、有価証券に類似する暗号資産を金融商品取引法の対象に含める明確化や、コールドウォレットによる管理義務化が導入され、利用者資産の保護が強化されました。

2025年には、さらに進化した規制が施行されました。暗号資産交換業者に対する国内保有命令の導入や、暗号資産取引に係る仲介業の創設が挙げられます。これにより、利用者の資産を預からない仲介業者は、説明義務や広告規制を遵守しつつ、柔軟に事業を展開可能になりました。また、信託型ステーブルコインの裏付け資産管理の柔軟化も図られ、市場の多様なニーズに応える形となっています。

資金決済法に基づくこれらの規制は、利用者保護を最優先に据えつつ、イノベーションを阻害しないバランスを追求しています。例えば、分別管理の原則としてコールドウォレットの活用が義務づけられ、外部監査による管理状況の透明化が推進されています。これにより、万一の事業者破綻時でも、国内利用者の資産返還が確実に担保されます。

金商法への移行とその意義

金融庁の金融審議会では、2025年6月に「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」が設置され、11月には報告書案がまとめられました。この報告書の核心は、暗号資産関連規制を資金決済法から金融商品取引法（金商法）へ移行させる点です。これまで「決済手段」として扱われてきた暗号資産を、「金融商品」として位置づける抜本的な見直しです。

この移行により、市場開設規制や不公正取引規制が適用され、公正で透明な取引環境が整備されます。デリバティブ取引の原資産として既に金融商品に位置づけられていた暗号資産ですが、現物取引を含む包括的な規制が整うことで、投資家保護が一段と強化されます。また、電子決済手段や暗号資産サービス仲介業は、金商法の金融商品仲介業に統合され、外務員制度などの既存枠組みが活用されます。

保護法益として、「国内交換業者の取引の公正性・健全性に対する利用者の信頼確保」が掲げられ、対象暗号資産の適切な取り扱いが義務づけられます。これにより、暗号資産市場は株式やFXなどの伝統金融商品と同等の信頼性を獲得し、健全な成長が期待されます。

監督・検査体制の強化

金融庁の「金融サービス利用者相談室」には、暗号資産関連の相談が月平均300件以上寄せられており、その多くが詐欺的な事例です。これに対応するため、刑事罰の対象化や自主規制機関の監査、金融庁による検査・調査が連携されています。取引所による上場審査や売買審査、金融商品取引業者の監査も活用され、多層的な監督体制が構築されています。

暗号資産交換業者の場合、情報セキュリティの管理者選任や役割明確化が求められ、機密性・完全性・可用性の維持が徹底されます。また、行に支障を及ぼす可能性のある暗号資産の取り扱いを避ける措置も義務化されており、事業者の適切性が確保されます。これらの仕組みは、利用者が安心して市場に参加できる環境を整えています。

イノベーション推進の取り組み

暗号資産金融庁の役割は監督にとどまらず、イノベーションの推進にもあります。米国での制度議論を参考に、日本でも資金決済法を基盤とした監督を市場規制観点で見直す動きが進んでいます。税制面でも、資産形成の視点から暗号資産をアセットクラスとして扱う論点が与党税制大綱で提示され、将来的な活用拡大が視野に入っています。

ステーブルコイン関連では、裏付け資産の管理運用を柔軟化し、電子決済手段としての利便性を高めています。暗号資産交換業者は、利用者資産の分別管理を原則コールドウォレットで行い、外部監査で透明性を保つことで、信頼を築いています。これにより、新たな決済インフラや資金調達手段としての暗号資産の可能性が広がります。

国際的な視点と日本独自の強み

国際的に見ても、FATF（金融活動作業部会）のトラベルルールが各国で実施され、暗号資産のマネーロンダリング防止が推進されています。日本はこれを先駆けて導入し、交換業者に義務づけています。暗号資産を財産的価値として法的に認識した点も、国家レベルでの先進的な取り組みです。

参議院の調査でも、暗号資産の決済・資金調達・投資対象としての現状と不正利用実態が分析され、制度整備の論点が整理されています。これにより、日本は国際基準に適合しつつ、独自の利用者保護モデルを確立しています。

利用者保護のための具体策

暗号資産交換業者は、利用者への説明義務を果たし、広告規制を遵守します。預り資産のない仲介業でも、同様のルールが適用され、財務規制を課さない柔軟さが特徴です。また、デリバティブを取り扱う金融商品取引業者は、利用者資産の受託を禁じつつ、厳格な管理を求められます。

これらの措置は、相談件数の多い詐欺被害を防ぎ、市場の信頼を高めます。金融庁のモニタリング室はリアルタイムで不正を監視し、迅速な対応を可能にしています。

未来志向の市場環境整備

暗号資産金融庁の取り組みは、金融のデジタル化を加速させます。ワーキンググループの議論では、仲介業の登録制創設や国内保有命令が、利用者資産の安全性を向上させています。金商法移行により、不公正取引防止が強化され、透明性の高い市場が形成されます。

事業者は、適切な暗号資産の選定とリスク管理を徹底し、健全な取引を支えます。これにより、暗号資産は日常生活や資産形成のツールとして、より身近な存在となります。

暗号資産の定義と基本理解

日本銀行の説明によると、暗号資産はインターネット上でやりとりできる財産的価値で、資金決済に関する法律で定義されています。代価の弁済に使用可能で、独自の性質を持つ資産です。この基礎理解が、市場参加の第一歩となります。

ステーブルコインと電子決済手段の役割

2025年の改正で創設された電子決済手段は、ステーブルコインの活用を促進します。取引業者は分別管理と外部監査を実施し、安定した価値提供を実現します。これにより、暗号資産の決済利用が拡大し、実生活での利便性が向上します。

組織体制の詳細

暗号資産・イノベーション課には、多様な専門家が集結。検査官はシステムリスクやAML（マネーロンダリング防止）を専門とし、モニタリング室は常時監視を担います。この体制は、迅速な対応と予防的な監督を可能にします。

規制の見直しプロセス

金融審議会のワーキンググループは、複数回の会議で議論を重ね、報告書を策定。資金決済法から金商法への移行は、業界の成熟を象徴します。仲介業の統合は、規制の効率化を図り、事業者の負担を軽減します。

利用者のための情報提供

金融庁は、相談室を通じて情報を提供。月300件以上の相談から得た知見を活かし、利用者教育を推進します。事業者は暗号資産の概要説明を義務づけられ、適切な取引を支援します。

市場の公正性確保

取引所の審査や当局の検査が連携し、不正を排除。課徴金や刑事罰が抑止力となり、健全な競争環境を育みます。

イノベーションの具体例

デジタル技術の活用で、新たなサービスが生まれています。ステーブルコインの柔軟管理は、効率的な運用を可能にし、市場の活性化を促します。

今後の展望

税制議論の進展や国際連携により、暗号資産は資産形成の選択肢として定着。金融庁の新部署は、この成長を支える中核となります。

まとめ

暗号資産金融庁は、金融庁の新時代を象徴する取り組みであり、監督強化とイノベーション推進により、暗号資産市場の健全な発展を支えています。利用者保護を徹底しつつ、デジタル金融の可能性を広げるポジティブな枠組みです。