リップル率は、直流電源の出力に混入する交流(脈動)成分の大きさを示す指標で、一般には直流成分に対する交流成分の比率をパーセントで表します。これにより電源品質や機器の安定動作性を評価できます。複数の分野(電源回路、LED照明、電源アダプタなど)で用いられる重要な概念です。
1. リップル率の基本定義
リップル率は、ある直流出力に重畳した交流成分(リップル、脈動)の大きさを示す数値です。一般的な定義は、交流成分の実効値(またはピークツーピーク値)を直流成分で割って百分率にしたものです。これにより「直流として期待される電圧や電流がどれだけ変動しているか」を客観的に示せます。複数の技術資料では、実効値ベースの定義を推奨していますが、現場での簡易評価にはピークツーピーク値を用いる場合もあります。
代表的な数式(実効値ベース)
リップル率(%) = (交流成分の実効値 VAC / 直流成分 VDC) × 100
簡易式(ピークツーピーク値ベース)
リップル率(%) ≒ (ピークツーピーク電圧 VPP / VDC) × 100
どちらを使うかは用途によって異なります。精密な比較や規格値評価では実効値(RMS)を用いる方が適切とされ、現場での素早い確認や波形観測ではピークツーピーク値が使われることが多いです。
2. 用語と関連概念の整理
- リップル(ripple):直流に重なった交流成分そのもの(電圧・電流の脈動)を指します。
- リップル率(ripple rate/脈動率):リップルの「割合」を数値化したものです。
- ピークツーピーク(Vpp):波形の最大値と最小値の差。簡易評価で用いられます。
- 実効値(RMS):波形のエネルギー的な大きさを表す値で、正確なリップル評価に使われます。
- 周波数成分(高調波):整流・スイッチングで生じる複数周波数の成分がリップルを構成することがあります。
3. リップル率が重要な理由(用途別の視点)
リップル率が高いと、機器性能や耐久性、視覚的・機能的な問題につながる可能性があります。以下、代表的な分野ごとの影響を示します。
- 電源回路・電子機器:デジタルICやアナログ回路では電源ノイズが動作不良・誤動作やノイズフロア上昇の原因になります。低いリップル率は安定した動作に寄与します。
- LED照明・照明機器:電源のリップルは明るさのわずかな変動(ちらつき)となって現れ、視認性や快適性に影響します。製品仕様ではリップル率に基づいた照度の安定性が求められます。
- 電源設計・品質管理:電源の評価指標としてリップル率は重要で、設計段階のフィルタ選定やコンデンサ容量の決定、熱設計にも関係します。
4. リップルの発生原因
リップルが生じる主な原因は、交流→直流変換や電源の平滑化が完全でないことです。以下が代表的な要因です。
- 整流器(ダイオードなど)を通した電源の脈流(全波・半波整流の違いでリップル特性が変わります)。
- 平滑コンデンサの容量不足や等価直列抵抗(ESR)の影響で充放電が不完全になること。
- スイッチング電源(DC-DCコンバータ等)に伴う高周波成分(スイッチング周波数や高調波)。
- 負荷の急激な変動(大電流の突入や変動)により出力電圧が追従できないこと。
- 配線インピーダンスや接地ループによるノイズの重畳。
5. リップル率の測定方法と注意点
測定では波形観測器(オシロスコープ)や専用のリップル測定器を用います。測定時のポイントは測定条件を明確にすることです(負荷、入力条件、測定器の帯域など)。
測定手順の概略
- 測定箇所の接地、プローブの接続を安定に行う(接続インダクタンスやループ面積を小さくする)。
- オシロスコープの帯域・設定を適切にし、必要に応じて低ノイズプローブや差動プローブを使う。
- 波形を取得し、リップルのピークツーピーク値(Vpp)や実効値(RMS)を計算する。
- リップル率を求める(実効値ベースまたはVppベース)。測定条件(負荷、入力電圧、温度など)を記録する。
注意点:オシロスコープの帯域が不足していると高周波成分を取り逃がすため、リップルが過小評価される恐れがあります。逆にプローブや配線が拾うノイズを含めてしまうと過大評価される場合もあるので、測定環境を整えることが重要です。
6. 工学的評価:実効値とピークツーピークの違い
リップルの評価に用いる値は結果に影響します。実効値(RMS)は波形のエネルギー的な影響を反映するため、電力や熱、動作誤差の議論に向きます。一方でピークツーピーク値は瞬間最大変動を見るため、波形ピークによる耐圧・過渡誤動作の評価に便利です。
多くの技術文献では、正確な比較や設計評価のためにRMSベースを推奨しますが、現場の簡易検査や規格表記ではVppベースが使われることもあるため、それぞれの前提を明示して使い分けることが大切です。
7. 測定例(概念的な説明)
例えば直流出力が12.00Vで、波形の実効交流成分が0.12Vrmsであった場合、リップル率は(0.12 / 12.00)×100 = 1.0%となります。ピークツーピークで同等の変動を見積もる場合は波形形状に応じて変換係数が必要です(正弦波ではVpp = 2√2 × Vrmsなど)。
8. リップル低減の基本対策
設計段階・現場で実行できる低減策を紹介します。複数の手法を組み合わせるとより効果的です。
- 平滑コンデンサの増加:フィルタ容量を増すことで平滑化時定数が長くなり、低周波リップルを抑えられます。ただし容量増加はサイズ・寿命・ESRの観点でトレードオフがあります。
- 低ESRコンデンサの採用:等価直列抵抗を下げることで充放電時の電圧変動を小さくできます。特にスイッチング電源の高周波リップルに有効です。
- LCフィルタやπ(パイ)フィルタの導入:インダクタとコンデンサを組み合わせることで広帯域のリップル除去が可能です。
- レギュレータの使用:リニアレギュレータや高性能のスイッチングレギュレータを配置して出力を安定化します。レギュレータ自身のリップル特性も確認する必要があります。
- スイッチング周波数の最適化とシールド:スイッチング電源では適切なスイッチング周波数や位相制御、EMI対策を行うことで高周波成分の影響を抑えられます。
- 配線・グラウンドの改善:配線インピーダンスを下げ、接地ループを小さくすることでノイズの重畳を抑制します。
- 負荷分散・デカップリング:高周波負荷にはデカップリングコンデンサを近接配置し、局所的なリップルを低減します。
9. 分野別の実務上の取り扱い例
各分野でリップル率に対する目安や実務対応は異なります。具体例を示します。
- 一般電子機器:多くの電源設計では数%以下のリップル率を目標とすることが一般的です(用途によっては0.1%以下を要求される場合もあります)。
- LED照明:明るさのちらつき抑制が重要で、規格や業界団体の指針に沿った低リップル化が求められることがあります(製品仕様でリップル率・ちらつき量を明示する場合があります)。
- 産業用電源・精密計測機器:微小信号を扱う機器では極めて低いリップルが必要で、フィルタ・レギュレータ・シールドなど多層の対策を行います。
10. 設計上のトレードオフと実務的留意点
リップル低減は万能ではなく、コスト・サイズ・効率・寿命などのトレードオフがあります。たとえばコンデンサ容量を大きくするとサイズやコスト、長期信頼性(電解コンデンサの高温寿命など)に影響します。スイッチング周波数を下げれば一部のリップルが減少しますが効率や磁性部品サイズに影響することがあります。
そのため、目標とするリップル率は用途の要求仕様に合わせて合理的に設定し、複数の対策(ハードウェア・レギュレーション・配線改善)を組み合わせるのが一般的です。
11. 規格・参考値(参考情報として)
用途によっては業界ガイドラインや製品規格でリップルに関する目安が示されます。例えばLED照明分野ではちらつきを抑える目的でリップルの上限や測定条件が示されることがありますし、電源メーカーのカタログでは代表的な出力ノイズやリップル特性が明記されています。製品設計時は該当する規格やメーカー仕様書を参照してください。
12. よくある質問(Q&A)
Q. リップル率とノイズは同じですか?
A. 完全に同じではありません。リップルは電源出力に規則的に重畳する脈動成分(整流やスイッチングに同期した成分)を指すことが多く、ノイズはより広い概念でランダム性の高い高周波成分なども含みます。実務では両者が重なって現れることが多いため、対策も併用されます。
Q. リップル率はどこまで小さくするべきですか?
A. 必要な値は用途に依存します。デジタル回路では数%でも支障がない場合が多い一方、精密計測やハイエンドのアナログ回路、照明のちらつき低減を要する用途では0.1%以下やさらに低い値が求められることがあります。設計対象の要求仕様に基づき適切に設定してください。
Q. 測定機器がない場合、簡易的に確認する方法は?
A. 専門的な値は測定器が必要ですが、LED照明などでは肉眼でちらつきが分かるかを簡易チェックすることもできます。ただし安全性や精度のため、製品評価や品質保証ではオシロスコープ等での定量測定が推奨されます。
13. 実務でのチェックリスト(設計・評価時に確認する項目)
- 要求されるリップル率(仕様)を明確にする。
- 測定条件(負荷、入力、温度、測定器の帯域)を記録する。
- コンデンサの容量・ESR・寿命特性を確認する。
- フィルタリング(LC, πなど)の設計とその影響を評価する。
- 配線・グラウンドの取り回しを最適化する。
- スイッチング電源ではスイッチング周波数とEMI対策を行う。
- 実運用条件下での測定(温度、負荷変動)を実施する。
14. 設計事例(概念的)
小型のAC→DCアダプタで低リップルを狙う場合、以下のような組合せがよく使われます。入力整流→大容量かつ低ESRの出力コンデンサ→LC出力フィルタ→ローノイズレギュレータ→局所デカップリング。これにより低周波から高周波まで広帯域でリップルを抑えることができます。各要素の選定はコスト・サイズ・効率とのバランスによります。
15. 参考となる技術資料・情報源(読み方のヒント)
リップルに関する情報は電源設計の教科書、メーカーのアプリケーションノート、業界技術記事などに豊富にあります。実務では複数の情報源を比較して、目的に応じた測定方法や対策手順を採用するのが良いでしょう。
16. 用語の英語表現(国際的な資料を読むときに)
- リップル = ripple
- リップル率 / 脈動率 = ripple rate / ripple factor / ripple percentage
- 実効値 = RMS (root mean square)
- ピークツーピーク = peak-to-peak (Vpp)
17. 実務上のワンポイントアドバイス
測定する際は「どの基準で評価するか(RMSかVppか)」「どの負荷条件で測るか」を必ず明示してください。同じ回路でも負荷や温度でリップルは変化するため、スペックやデータシートに記載された「測定条件」を確認して比較することが重要です。
18. 追加の学習リソース(探し方のコツ)
より詳しく学ぶには、電源設計に関する教本やメーカーアプリノート、電子工作/回路設計の解説記事を複数参照すると良いです。設計例や具体的な部品選定(コンデンサの種類やレギュレータの選び方)については実践的なアプリケーションノートが役立ちます。
まとめ
リップル率は、直流出力に含まれる交流成分(リップル)の割合を示す重要な指標で、実効値(RMS)やピークツーピーク値を用いて算出されます。用途に応じて適切な測定方法と評価基準を選び、コンデンサやフィルタ、レギュレータ、配線対策など複数の手段を組み合わせてリップルを低減することが実務では有効です。測定時には条件(負荷・温度・測定帯域)を明確にして比較・評価を行い、設計上のトレードオフを意識することが重要です。
リップル率とは?電源の品質を左右する基礎知識と測定・低減対策をまとめました
リップル率は直流出力に含まれる脈動成分の大きさを示す割合(%)であり、機器の安定性や性能に影響を与えるため、測定・評価・低減対策を適切に行うことが望まれます。



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