暗号資産法人含み益課税とは
暗号資産(仮想通貨)を法人で保有する場合、個人とは異なる税務上の取り扱いがあります。その中でも特に重要なのが「含み益課税」という制度です。法人が暗号資産を保有している場合、実際に売却して利益を確定していなくても、決算時点での含み益に対して法人税が課税されるという仕組みになっています。
個人の場合は、暗号資産を売却して初めて利益が確定し、その時点で所得税が課税されます。しかし法人の場合は、決算期末時点で保有している暗号資産を時価評価し、その評価額が取得原価を上回っていれば、その差額(含み益)が課税対象となるのです。これは暗号資産の価値が上昇している場合でも、実際に現金化していない状態で税金を納める必要があるということを意味しています。
法人税率と個人所得税率の違い
暗号資産に関する税金を考える際、法人と個人の税率の違いを理解することは重要です。法人の場合、資本金が1億円を超えている企業では、法人税率は一律23.2%となります。一方、資本金が1億円以下の企業の場合は、所得が800万円以下の部分については15%、それを超える部分については23.2%が適用されます。
これに対して個人の所得税は、所得額に応じて段階的に税率が変わる累進課税制度が採用されています。個人の所得税の最高税率は45%であり、住民税などを含めると最大で55%程度になる可能性があります。この点だけを見ると、法人の方が税率が低いように見えます。
しかし、法人の場合は含み益に対しても課税されるという特殊な制度があるため、単純に税率だけで比較することはできません。法人が暗号資産を長期保有する場合、毎年の決算時に含み益に対して税金を納める必要があり、これが企業の資金繰りに大きな影響を与える可能性があります。
含み益課税の具体的な仕組み
法人が暗号資産を保有している場合、期末時点での含み益がどのように課税されるのかを具体的に説明します。法人は決算期末に、保有している暗号資産を時価評価する必要があります。この時価評価額が取得時の原価を上回っていれば、その差額が評価益として計上されます。
例えば、ある企業が100万円で購入した暗号資産が、決算期末時点で150万円の価値に上昇していたとします。この場合、50万円の含み益が発生しており、この50万円に対して法人税が課税されることになります。重要な点は、この企業がまだ暗号資産を売却していないということです。つまり、実際には現金を手にしていないにもかかわらず、税金を納める必要があるのです。
さらに複雑な状況として、含み益に対して課税された後、その暗号資産の価値が下落する可能性があります。例えば、150万円で評価されて税金を納めた暗号資産が、その後100万円に値下がりしてしまった場合、企業は含み益に対して納めた税金を回収することができません。このような状況は、企業の経営に大きな負担をもたらす可能性があります。
令和6年の税制改正による変更点
暗号資産法人含み益課税の制度は、令和6年(2024年)の税制改正により大きな変更がもたらされました。この改正は、特定の条件を満たす暗号資産について、含み益課税の対象から除外するというものです。
改正の対象となるのは「特定譲渡制限付暗号資産」と呼ばれるカテゴリーの暗号資産です。これは、発行企業が自社で保有している暗号資産のうち、発行時から継続して一定の譲渡制限が設けられているものを指します。このような暗号資産を保有している法人は、改正以降、含み益に対する課税を回避できるようになりました。
改正法の適用時期は、令和6年4月1日以後に終了する事業年度の法人税から適用されます。つまり、2024年4月1日以降に決算期末を迎える企業から、この新しい制度が適用されることになります。
改正による主な効果は、該当する暗号資産を保有している法人が、期末評価に「原価法」を選定できるようになったということです。原価法を選定した場合、暗号資産の価値が上昇していても、取得時の原価で評価することになり、含み益に対する課税が発生しません。
特定譲渡制限付暗号資産の要件
令和6年の税制改正で含み益課税の対象外となる「特定譲渡制限付暗号資産」には、いくつかの要件があります。まず、その暗号資産を発行している企業が、自社で保有していることが必要です。つまり、他社が発行した暗号資産を保有している場合は、この制度の対象にはなりません。
次に、その暗号資産に対して発行時から継続して一定の譲渡制限が設けられていることが条件となります。譲渡制限とは、その暗号資産を自由に売却したり譲渡したりできないという制限のことです。このような制限が設けられていることで、その暗号資産が長期的に保有されることが想定されており、含み益課税の対象から除外されるという仕組みになっています。
さらに、令和5年度の税制改正では「特定自己発行暗号資産」という概念も導入されました。これは、暗号資産の発行企業が自社で保有する暗号資産のうち、発行時から継続して一定の譲渡制限が設けられているものを指します。このカテゴリーの暗号資産についても、期末時価評価の対象から除外されることになりました。
評価方法の選定手続き
含み益課税の対象外となる暗号資産を保有している法人が、原価法を選定する場合には、一定の手続きが必要です。評価方法の選定は、取得日の属する事業年度の確定申告期限までに、税務署に届け出を行う必要があります。
重要な点として、この届け出を行わなかった場合は、自動的に原価法が期末の評価額として適用されることになります。つまり、特に届け出を行わなくても、該当する暗号資産については原価法による評価が行われるということです。ただし、明確に届け出を行うことで、税務上の取り扱いをより確実にすることができます。
評価方法の選定は、一度決定すると継続して適用される必要があります。そのため、企業の経営方針や暗号資産の保有戦略に基づいて、慎重に判断することが重要です。
市場暗号資産と特定譲渡制限付暗号資産の違い
暗号資産には大きく分けて2つのカテゴリーがあります。1つは「市場暗号資産」で、もう1つが「特定譲渡制限付暗号資産」です。市場暗号資産とは、ビットコインなどのように活発な市場が存在し、自由に売買できる暗号資産を指します。
法人が市場暗号資産を保有している場合、税務上は期末に時価評価を行い、その含み損益を課税対象とします。つまり、含み益がある場合は法人税が課税され、含み損がある場合は損失として計上することができます。
一方、特定譲渡制限付暗号資産は、譲渡制限が設けられているため、市場での自由な売買ができません。このような暗号資産については、令和6年の税制改正により、含み益課税の対象から除外されるようになりました。
この違いは、企業の暗号資産戦略に大きな影響を与えます。市場暗号資産を保有している場合は、毎年の決算時に含み益課税の対象となる可能性があるため、資金繰りの計画が重要になります。一方、特定譲渡制限付暗号資産を保有している場合は、含み益課税を回避できるため、長期的な保有戦略を立てやすくなります。
個人から法人への暗号資産譲渡時の税務上の取り扱い
暗号資産を個人から法人に移す場合、税務上の取り扱いが複雑になります。個人が保有していた暗号資産に含み益がある状態で法人に譲渡する場合、その含み益は個人側で実現したものとして扱われます。つまり、個人側で所得税が課税されることになります。
さらに、譲渡時の時価と法人が受け取った暗号資産の価値に差がある場合、法人側で「受贈益」として課税される可能性があります。受贈益とは、無償で受け取った資産に対する課税のことです。このため、個人から法人への暗号資産の移転は、税務上の観点から慎重に検討する必要があります。
企業が暗号資産を個人から法人に移す場合は、税理士などの専門家に相談し、最適な方法を検討することが重要です。適切な手続きを踏むことで、不必要な税負担を避けることができます。
法人が暗号資産を保有する際の資金繰りへの影響
法人が暗号資産を保有する場合、含み益課税による資金繰りへの影響は無視できません。個人の場合、暗号資産を売却して初めて利益が確定し、その売却代金から納税資金を捻出することができます。しかし法人の場合、実際に売却していなくても含み益に対して税金を納める必要があります。
例えば、企業が1000万円で購入した暗号資産が、決算期末時点で1500万円に値上がりしていた場合、500万円の含み益に対して法人税が課税されます。資本金が1億円を超える企業の場合、この500万円に対して23.2%の税率が適用されるため、約116万円の税金を納める必要があります。
この税金を納めるためには、企業は別途現金を用意する必要があります。もし企業の現金流動性が低い場合、この税負担は経営に大きな影響を与える可能性があります。特に、暗号資産の価値が変動しやすいという特性を考えると、含み益課税による予測不可能な税負担は、企業の経営計画に支障をきたす可能性があります。
令和6年の税制改正がもたらす企業への影響
令和6年の税制改正により、特定譲渡制限付暗号資産に関する含み益課税が廃止されたことは、暗号資産関連事業を展開する企業にとって大きなメリットをもたらします。この改正により、企業は含み益課税による資金繰りの負担を軽減することができるようになりました。
特に、暗号資産プロジェクトを発足して、自社で暗号資産を発行・保有している企業にとって、この改正は事業推進を容易にします。従来は、発行した暗号資産の価値が上昇すると、含み益課税により毎年の決算時に税金を納める必要がありました。しかし改正後は、譲渡制限が設けられている暗号資産については、含み益課税の対象外となるため、企業はより柔軟に事業戦略を立てることができるようになります。
一方で、他社が発行した暗号資産を保有している企業や、市場で自由に売買できる暗号資産を保有している企業については、依然として含み益課税の対象となります。このため、企業の暗号資産保有戦略によって、税務上の取り扱いが異なることになります。
暗号資産の期末評価方法
法人が暗号資産を保有する場合、期末時点での評価方法は税務上重要な意味を持ちます。一般的には、市場で取引されている暗号資産については、期末時点での市場価格を基準に時価評価が行われます。
特定譲渡制限付暗号資産の場合、原価法を選定することで、取得時の原価で評価することができるようになりました。これにより、暗号資産の価値が上昇していても、含み益に対する課税が発生しないという利点があります。
企業が複数の暗号資産を保有している場合、それぞれの暗号資産について異なる評価方法が適用される可能性があります。市場暗号資産については時価法による評価が必要であり、特定譲渡制限付暗号資産については原価法を選定することができます。このため、企業の会計処理は複雑になる可能性があります。
暗号資産関連事業の発展と税制改正
日本の暗号資産関連産業の発展を促進するため、政府は段階的に税制改正を進めてきました。令和5年度の税制改正では、暗号資産の発行企業に対する改正が行われ、令和6年度の改正では、さらに詳細な要件が定められました。
これらの改正は、日本国内で暗号資産関連事業を展開する企業にとって、より有利な税務環境を整備することを目的としています。含み益課税の廃止により、企業は長期的な視点で暗号資産プロジェクトを推進することができるようになりました。
今後も、暗号資産市場の発展に伴い、税制上の取り扱いが変更される可能性があります。企業は最新の税制情報を把握し、適切な対応を取ることが重要です。
企業が取るべき対応
暗号資産を保有している企業は、含み益課税に関する最新の税制情報を把握し、適切な対応を取る必要があります。特に、令和6年4月1日以後に決算期末を迎える企業は、新しい税制の適用対象となるため、事前の準備が重要です。
企業が保有している暗号資産が「特定譲渡制限付暗号資産」に該当するかどうかを確認することが、まず重要なステップです。該当する場合は、原価法を選定するための届け出手続きを、確定申告期限までに行う必要があります。
また、企業の会計処理や税務申告に関しては、税理士などの専門家に相談することが推奨されます。暗号資産の税務上の取り扱いは複雑であり、企業の個別の状況に応じた適切な対応が必要です。
まとめ
暗号資産法人含み益課税は、法人が暗号資産を保有する場合に発生する独特の税務上の制度です。個人とは異なり、法人は実際に暗号資産を売却していなくても、決算期末時点での含み益に対して法人税が課税されます。この制度は、企業の資金繰りに大きな影響を与える可能性があります。しかし、令和6年の税制改正により、特定譲渡制限付暗号資産については含み益課税の対象から除外されるようになりました。この改正により、暗号資産関連事業を展開する企業は、より柔軟に事業戦略を立てることができるようになりました。企業は最新の税制情報を把握し、自社の暗号資産保有戦略に基づいて、適切な税務対応を取ることが重要です。
令和6年改正でどう変わる?法人の暗号資産「含み益課税」をわかりやすく解説 — 特定譲渡制限付トークンで税負担を回避する条件をまとめました
暗号資産を法人で保有する場合、含み益課税という独特の税務制度が適用されます。この制度は、実際に利益を確定していなくても、決算期末時点での含み益に対して法人税が課税されるというものです。法人の実効税率は最大で35%程度であり、個人の最高税率55%と比べると低いように見えますが、含み益課税により毎年の決算時に予測不可能な税負担が発生する可能性があります。令和6年の税制改正により、特定譲渡制限付暗号資産については含み益課税が廃止されたため、企業は長期的な暗号資産保有戦略を立てやすくなりました。企業が暗号資産を保有する場合は、自社の暗号資産が改正の対象となるかどうかを確認し、必要に応じて税務専門家に相談することが重要です。



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