暗号資産取引による所得は雑所得に分類される
暗号資産(仮想通貨)の取引によって得られた利益は、所得税法上「雑所得」として分類されます。所得には給与所得、事業所得、不動産所得など全部で10種類の区分がありますが、暗号資産の売却や使用によって生じる利益は、原則としてこの雑所得に該当することが定められています。
令和4年10月に所得税基本通達が改正され、その他雑所得の例示として「譲渡所得の基因とならない資産の譲渡から生ずる所得」が追加されました。この改正により、暗号資産の譲渡による所得が雑所得であることが税務上でも明確に示されることになりました。
暗号資産取引による収入が事業所得などの各種所得の基因となる行為に付随して生じる場合を除き、基本的にはすべて雑所得として扱われます。これは、ビットコインをはじめとするあらゆる暗号資産の取引に適用される原則的な取扱いです。
総合課税と他の所得との合算
雑所得として分類された暗号資産の利益は、「総合課税」の対象となります。総合課税とは、給与所得や事業所得、不動産所得など他のすべての所得と合算して、合計額に対して税率を適用する課税方式です。
この点が重要なのは、同じ雑所得でもFX(外国為替証拠金取引)による利益とは異なる扱いを受けるということです。FXの利益は「申告分離課税」の対象となり、他の所得と分けて税額を計算されますが、暗号資産の利益はそうではなく、他の所得と合算されるのです。
例えば、給与所得が500万円で暗号資産取引による利益が100万円の場合、合計600万円が課税対象となります。この合計額に対して所得税率が適用されるため、暗号資産の利益が大きいほど、全体の税負担が増加する可能性があります。
また、暗号資産取引による損失が発生した場合でも、他の所得との損益通算(利益と損失を相殺すること)は認められていません。つまり、暗号資産で損失が出ても、給与所得などの他の所得から差し引くことはできないということです。さらに、損失を翌年以降に繰り越すことも認められていません。
確定申告が必要となる基準
暗号資産取引による利益がある場合、確定申告が必要かどうかは、個人の状況によって異なります。最も一般的なケースから説明していきましょう。
会社員や公務員などの給与所得者が副業として暗号資産取引を行っている場合、雑所得が年間20万円を超えると確定申告の義務が生じます。これは暗号資産取引による利益だけでなく、他の副業による雑所得も含めた合計額で判定されます。
一方、主婦や学生など扶養されている人で他に収入がない場合は、雑所得が年間95万円を超えると確定申告が必要になります。この基準が異なるのは、基礎控除の額が異なるためです。
個人事業主として開業している場合は、暗号資産取引による利益の有無にかかわらず、確定申告が必要です。また、年金受給者の場合は、公的年金収入が400万円を超えるか、暗号資産を含めた雑所得が20万円を超える場合に確定申告が必要となります。
重要な点として、暗号資産取引で1円でも利益があると、税金がかかるということを理解しておく必要があります。確定申告の義務がない場合でも、利益に対する税金は発生しているのです。
損失が出た場合の取扱い
暗号資産取引で損失が発生した場合、その損失を他の所得と相殺することはできません。これは暗号資産の雑所得という分類が、他の所得との損益通算を認めていないためです。
例えば、給与所得が500万円で暗号資産取引による損失が100万円の場合、給与所得から100万円を差し引いて400万円として申告することはできません。給与所得は500万円のままとなり、暗号資産の損失は税務上考慮されないのです。
また、ある年に暗号資産取引で損失が出た場合、その損失を翌年以降に繰り越して、翌年の利益と相殺することも認められていません。毎年独立した計算となるため、損失管理が重要になります。
利益の計算方法と必要経費
暗号資産取引による雑所得を計算する際には、まず取引による利益を算出し、そこから必要経費を差し引く必要があります。
利益の計算には「総平均法」が用いられるのが一般的です。総平均法とは、1年間に購入した暗号資産の平均購入価格を計算し、売却時にその平均価格を基準として利益を算出する方法です。この方法により、複数回の購入と売却がある場合でも、統一的に利益を計算することができます。
必要経費として認められるのは、暗号資産取引に直接関連する費用です。例えば、取引所の手数料、送金手数料、税理士への相談費用などが該当します。ただし、どの費用が必要経費として認められるかは、個別の状況によって判断される必要があります。
利益から必要経費を差し引いた金額が、その年の雑所得となります。この雑所得に給与所得や他の所得を合算して、総所得金額を算出します。
控除と税率の計算
総所得金額が算出された後、各種控除を差し引いて課税所得を計算します。基礎控除は全員に適用される控除で、現在は48万円です。このほか、社会保険料控除、医療費控除、生命保険料控除など、個人の状況に応じた各種控除があります。
課税所得が決定されると、その金額に応じた所得税率が適用されます。所得税の税率は累進課税制度となっており、課税所得が大きいほど税率が高くなります。最低5%から最高45%までの税率が設定されており、暗号資産による大きな利益がある場合は、最高税率が適用される可能性があります。
さらに、課税所得に応じて住民税も計算されます。住民税の税率は一律10%(所得割)です。暗号資産取引による利益は、この住民税の計算にも含まれます。
確定申告の手続きと提出方法
暗号資産取引による利益について確定申告が必要な場合、毎年2月16日から3月15日までの期間に申告書を提出する必要があります。申告書は税務署に直接提出するか、郵送、またはオンラインで提出することができます。
申告の際には、暗号資産の計算書を作成して提出する必要があります。この計算書には、1年間の取引内容、購入額、売却額、利益額などを記載します。取引所から提供される取引履歴を基に、正確に計算書を作成することが重要です。
申告書には、雑所得の内訳書も添付する必要があります。ここに暗号資産取引による利益、必要経費、雑所得の金額を記載します。
確定申告書の作成には、税務署が提供する確定申告書作成コーナーを利用することができます。このコーナーでは、画面の指示に従って必要な情報を入力することで、申告書を作成できます。
申告漏れと加算税
暗号資産取引による利益について確定申告義務があるにもかかわらず、申告しなかった場合には、ペナルティが課される可能性があります。
申告漏れが発見された場合、「無申告加算税」が課されます。この加算税は、納付すべき税額に対して一定の割合で加算されるものです。また、意図的に申告を避けたと判断される場合は、「重加算税」が課される可能性もあります。重加算税の税率は無申告加算税よりも高く設定されています。
さらに、申告期限を過ぎて申告した場合には、延滞税も課される可能性があります。延滞税は、納付期限の翌日から納付日までの日数に応じて計算されます。
これらのペナルティを避けるためにも、暗号資産取引による利益がある場合は、期限内に正確な確定申告を行うことが重要です。
取引記録の管理と保存
確定申告を正確に行うためには、暗号資産取引の記録を適切に管理・保存することが不可欠です。取引所から提供される取引履歴は、確定申告の基礎となる重要な資料です。
各取引所の取引履歴には、購入日、購入数量、購入価格、売却日、売却数量、売却価格などの情報が記載されています。これらの情報を収集し、整理しておくことで、利益の計算が容易になります。
複数の取引所を利用している場合は、すべての取引所の履歴を集約して管理する必要があります。また、暗号資産の送受信記録も保存しておくと、取引の追跡が容易になります。
取引記録は、確定申告後も一定期間保存しておく必要があります。税務調査が行われる可能性があるため、少なくとも5年間は保存しておくことが推奨されています。
複数の暗号資産を保有している場合
ビットコイン、イーサリアム、その他のアルトコインなど、複数の暗号資産を保有・取引している場合、すべての取引を合算して雑所得を計算する必要があります。
各暗号資産ごとに利益を計算し、それらを合計することで、その年の総雑所得が決定されます。一つの暗号資産で利益が出ていても、別の暗号資産で損失が出ている場合、損益通算はできませんが、合計額で判定することになります。
例えば、ビットコイン取引で100万円の利益、アルトコイン取引で50万円の損失が出た場合、合計50万円の雑所得として申告することになります。
給与所得者と個人事業主での違い
給与所得者と個人事業主では、暗号資産取引に関する税務上の取扱いに違いがある場合があります。
給与所得者が副業として暗号資産取引を行う場合、その利益は雑所得として分類されます。一方、個人事業主が事業の一環として暗号資産取引を行う場合、事業所得として分類される可能性があります。事業所得として分類されると、損益通算や損失の繰越控除が認められるなど、税務上の取扱いが異なります。
ただし、事業所得として認められるためには、継続的・反復的に取引を行い、事業規模であることが必要です。単なる副業レベルの取引では、事業所得として認められない可能性が高いです。
暗号資産の取得価格の把握
利益を正確に計算するためには、暗号資産の取得価格を正確に把握することが重要です。特に、複数回に分けて購入した場合や、長期間保有している場合は、取得価格の管理が複雑になります。
総平均法を用いる場合、1年間に購入したすべての暗号資産の平均購入価格を計算する必要があります。例えば、1月に100万円で1ビットコイン購入し、6月に150万円で1ビットコイン購入した場合、平均購入価格は125万円となります。
この平均購入価格を基準として、売却時の利益を計算します。正確な取得価格の把握により、申告時の計算ミスを防ぐことができます。
税理士への相談の活用
暗号資産取引による確定申告は、複雑な計算が必要となるため、税理士に相談することも有効な方法です。税理士は、個人の状況に応じた最適な申告方法をアドバイスすることができます。
特に、取引量が多い場合や、複数の暗号資産を保有している場合、または他の所得との組み合わせが複雑な場合は、専門家のサポートを受けることで、申告漏れや計算ミスを防ぐことができます。
税理士への相談費用は、確定申告の際の必要経費として認められる可能性があります。これにより、実質的な税負担を軽減することができます。
まとめ
暗号資産取引による利益は、原則として雑所得に分類され、給与所得などの他の所得と合算して総合課税の対象となります。給与所得者の場合、年間20万円を超える雑所得がある場合には確定申告が必要です。利益の計算には総平均法が用いられ、必要経費を差し引いた金額が雑所得となります。損益通算や損失の繰越控除は認められていないため、取引記録の正確な管理が重要です。確定申告義務を果たさない場合には、無申告加算税などのペナルティが課される可能性があります。複雑な計算が必要な場合は、税理士への相談も検討する価値があります。
暗号資産の確定申告完全ガイド:雑所得扱い・総合課税・損失の扱いと申告のポイントをまとめました
暗号資産取引による確定申告と雑所得の関係を理解することは、適切な税務申告を行うための基礎となります。暗号資産の利益が雑所得に分類されることで、他の所得との合算による総合課税が適用され、場合によっては高い税率が適用される可能性があります。確定申告の義務がある場合は、期限内に正確な申告を行うことが重要です。取引記録の管理、利益の正確な計算、必要経費の把握など、事前の準備が申告時の手続きを円滑にします。暗号資産取引を行う際は、税務上の取扱いを十分に理解した上で、適切な記録管理と申告を心がけることが、長期的な資産形成につながるでしょう。



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